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山本美芽のフュージョン・ダイアリー

音楽ライター山本美芽によるジャズとフュージョンについての取材日記です。

インコグニート@モーションブルー横浜2nd 2011年4月8日

イギリスのジャズ・ファンクバンドのインコグニート、日本ツアーの最後となった横浜のモーションブルー、2ndセットを聴いてきました。いやはやこのバンド、最強。女性ヴォーカル2人に男性ヴォーカル1人、トロンボーン・テナーサックス(兼フルート)・トランペットの金管3名、そしてリーダーのギター、ブルーイ、ドラムとベースとキーボードと。まあ大勢ステージ上に並んでます。ヴォーカルはカリブ海勢、ほかはヨーロッパ系白人。


以前ブルーノート東京で観たことはあったんですが、モーションブルーはずっとちっちゃいし、しかも「ギターの近所の席がいいです」とリクエストしたらステージのまん前。かぶりつき状態。スピーカーの音が直撃で、実はいまもちょっと耳がヘン、というぐらい。

演奏がはじまるとドラムの音がいきなりドカーンと直撃で思わず耳をふさいでしまう。TAMAのセット、私には詳しいことはわかりませんが、どう見てもジャズ向けの音量ひかえめセットじゃ、ない。ロック向けでもないのだろうけど、音量かなり大きいです。

しかもホーンセクションも吹くときはぶいぶい吹いてる。ヴォーカルの人たちの音量たるやすさまじい。もちろん、ホーンとかドラムとかが控えめにして落ち着いて歌えるようにしてあげる箇所もありつつも、歌が歌っていても、ホーンやらドラムやらが思いっきり音量セーブしないで(もしかしたら若干セーブしてるのかもしれないけど)ドカーンと演奏しちゃってる。

今回はこの事実を体感したのがまず収穫でした。インコグニートのあのパワーというのは、この、場所によってはヴォーカルに遠慮しないで音量もがんがんいちゃう、そこが絶対に重要なんじゃないかと。そういうバンドでも平気で歌っちゃう、埋もれないパワーとテクニックを持ったヴォーカリストがまた、インコグニートにはいるのですね。

ライブ冒頭、いきなり「いっしょにたてなおそう」とブルーイが日本語で話す。奥様が日本人なんだそうで、「ちょっとまって」とか、日本語がぽろりぽろりと出てくるブルーイ。地味なグレーのシャツを着てて、たぶんおなかがもうぽっこりしちゃってて、おじちゃん、ってやさしい雰囲気。でも、演奏中には目が右に左にきゅっ、きゅっと動いて、音楽の流れをちゃんと見ている。やっぱりインコグニートのリーダー。

以前はよくわかっていなかったけど今ならわかる、このブルーイこそが、インコグニートそのもの。盛り上がったときにステージ中央に出てきて歌ったり管楽器パートを口で歌ったりしてくれて、それを聴いていると、ブルーイの頭の中にあるものを具体化したのがインコグニートの音楽なんだなと感じます。とにかく好き、この音楽、このリズム、この音色と思えば思うほど、ブルーイから目が離せなくなり、かぶりつき席であまりに見つめていたせいか、何度かブルーイと目があってしまう。目で微笑んでくれたけど、いやーびっくりした。クラスをみわたす担任教師のように、お客さんをひとりひとり見ているようです。知ってる曲で思わず一緒に小さいな声で歌っていたらまた目があったような。

ヒット曲をたくさん演奏してくれました。Still a Friend of mineはもう一緒に合唱しちゃったし,Everydayで踊って飛び跳ねてしまった…、ライブで飛び跳ねたなんていったいいつ以来だろうか。私だけでなくみんな飛び跳ねてたのでつい。Nights over the Egyptでもみんな踊ってました。キーボード奏者がなんだかとんでもなく濃い存在感のあるプレイをしていてソロのときは釘付けになってしまう。インコグニートはあまりソロまわしみたいなことをやらなくて、決まっていることをきっちり演奏するバンドなんだけど、ライブではやっぱりソロもあるんですね。インコグニートの音楽にかっこいいエレピのバッキングは絶対にはずせないので、それを聴いているだけでも、もううっとり。

ブルーイは、今回の日本公演について”It was a choice”といっていました。そりゃそうですよ。今日だって、福島原発の1号機は水素爆発のおそれがあって水素を注入しているのに、そんな日本に来てツアーしてくれたんですから。「自分は子どもの頃に体が弱くて、5歳まで家にいつもいた。テレビはなかったけどラジオがあって音楽がかかるのがすごく楽しみだった。音楽には力がある」とか、「ミュージシャンとして売れる前には、倉庫の仕事(?このへんちょっとあやふやですが)をしていた。ある日自分の曲がラジオから流れてきて、この仕事にさよならできるとわかって、バイバイするのがすごく嬉しかった」とか。インド洋に浮かぶ島国のモーリシャスからロンドンに9歳で移民して、英語がわからなくてつらかったときに音楽が助けになったことも別のインタビューで読みました。

要するに、すごく、苦労人なんですね。ブルーイ。世界的な成功をおさめてからも、つらいときに音楽が人間を助けてくれるという信念みたいなものがあって、この人を動かしているのかな・・・。インコグニートの音楽も、すごくエンターエインメント性が高く、ヴォーカルが入っていて覚えやすい、だけど普通のポップスとはぜんぜん違っていてヴォーカルも楽器のひとつ的な扱いでもあり、ジャズファンから聴いても聴き応えのあるソロとかユニゾンとか、理屈抜きに踊りたくなるファンクのリズムを最高の状態で聞かせてくれるとか。聴いた人がハッピーになれる、聴いている間はすべて別のことを忘れていられる、そんな音楽。だから余計に、いまの日本人に聞かせたい、届くはずという信念があるのではないかと。

ブルーノート東京の公演が終わった後、レコーディングしたという日本に向けた曲も演奏されました。このときはちょっとなんだかしんみりしたかな。そのあとに僕らはせっかく生きているんだからcelebrateしないとね、ということで、イケイケな曲をもってきて盛り上がったかな。この流れが見事でした。

あまりに楽しくて、いつもならモーションブルーではアルコールは1杯にしておくのに、つい2杯飲んでしまいました。そうそう、Still a Friend of mine のとき、ドラムの人がベースに、キーボードの人がドラムに、ベースのひとがキーボードにいきなり交代して弾き始めて、それがまた信じられないぐらいうまくて、特にキーボード奏者の人が叩いたドラムのかっこいいこと、腕もなんかいかにもドラマーって感じで、唖然としちゃいました。まあこういう人たちになると、ずっとツアーしていて他の人のパートまですっかり頭に入っているでしょうから、ある程度おぼえのある楽器だったらできちゃうんでしょうが、それにしても信じられない。

ホーンセクションの3人の音、手を伸ばせば届きそうな位置で聞きましたが、もう3人でひとつの楽器みたいになっちゃってて、歯切れがいいとかそういう次元を超えていました。もーかっこよすぎ。わりと音をぎらぎらつやつやさせないで、地味な感じにしていたような気もしますね。踊っちゃう曲では、ホーンの3人でそれは楽しいステップを踏んでみせてくれて、これがまたかっこよくて、楽しかったなあ。

汗びっしょりになって、手が痛いほど拍手をしながらメンバーの退場を見送っていたら、ちょうど私の席のそばを通ってミュージシャンたちが退場していく。みんなお客さんたちは手をあげてブルーイとハイタッチ。えっ!!?? 何? 私もハイタッチしていいんだろうか!? と硬直しているうちにブルーイが私の前を通り過ぎ、一瞬ですがにっこり笑ってくれて、私の二の腕をとんとん、と叩いて去っていきました。ハイタッチしたさそうな顔をして、私が硬直していたのをわかっていたのでしょうか。何もかもお見通しの担任の先生みたい。いつかインタビューできたらいいなあ。

別に震災がなくてもインコグニートはいつでも素晴らしい。だけどこんなときに生の演奏を聴けて、被害があったことにメンバーたちも真摯に思いを寄せてくれて、聴衆である私たちも不安な日々を送っていて、だからこそ共鳴しあう部分が強く感じられました。おそらく、一生忘れられない。

音楽には力がある、と繰り返していたブルーイ。私も40代に突入したのに、大学生の頃とまるっきり同じ気分になって、汗をかいて飛び跳ねてしまった。なんか、やられたー。気がつけば9時半に2ndステージが開演して、終演したら11時15分を過ぎています。終電ぎりぎり。モーションブルーでこの長さは破格。お得感ありすぎ。大満足。

インコグニートのみなさん、明日は韓国に移動して、韓国でもライブをするそうです。



Live in London: The 30th Anniversary

Live in London: The 30th Anniversary

チャリティCDのレコーディングについて
http://www.cdjournal.com/main/news/-/37595
ブルーノート東京のレポート
http://www.bluenote.co.jp/jp/movie/incognito/

Jean Paul "Bluey" Maunick(g,vo)
ジャン・ポール“ブルーイ”モニック(ギター、ヴォーカル)
Chris Ballin(vo)
クリス・バリン(ヴォーカル)
Vanessa Haynes(vo)
ヴァネッサ・ヘインズ(ヴォーカル)
Lorraine Cato-Price(vo)
ロレイン・ケイト−プライス(ヴォーカル)
Sid Gauld(tp)
シッド・ゴウルド(トランペット)
Alistair White(tb)
アリスター・ホワイト(トロンボーン)
Jamie Anderson(sax)
ジェイミー・アンダーソン(サックス)
Matt Cooper(key)
マット・クーパー(キーボード)
Julian Crampton(b)
ジュリアン・クランプトン(ベース)
Pete Ray Biggin(ds)
ピート・レイ・ビギン(ドラムス)

http://www.incognito-everywhere.com/