山本美芽のフュージョン・ダイアリー

音楽ライター山本美芽によるジャズとフュージョンについての取材日記です。

本田雅人B.B.STATION@ブルーノート東京 2011年7月15日2nd

 先週のディメンションに続き、則竹さんの追っかけ活動も兼ねて、本田雅人B.B.STATIONを聴きにブルーノート東京に行ってきた。家族にご飯を食べさせて、夜の8時前に家を飛び出し、表参道に向かう。9時過ぎにはBNに到着。なんと整理券配布をしている模様。私は88番だった。開演10分前になって、ようやく会場に入れた。おお、満席じゃん。どこに座れるだろう。

「ドラムがよく見える席にしてください」と係の人にお願いしたところ、ステージの本田さんとアルトの鍬田さんの間のあたりのまん前の席。4人がけのテーブルで1つだけ席がぽつんとステージ側が残っていたところに入れてもらえた。ここって、椅子がステージにほとんどくっついてて、譜面台が手を伸ばせば届いちゃうぐらいの場所だった。ひえー。前すぎ。いやいや、ドラムは確かによく見える。いい席じゃないですか。(シンバルで則竹さんのお顔は見えなかったけど)

 ミュージシャンが舞台に入ってくると、目の前に座った鍬田さんとあまりに至近距離で、うっかり演奏前に、目があってしまった。鍬田さんは、10年ぐらい前にジロキチでKORENOSの飛び入りで演奏されたときにお話したことがあるかもしれないが、いくらなんでも私のことは覚えていないだろう。でも目があったので、なんとなく会釈。ひえー。いくらなんでも近すぎだよー。なんなんだこの席。本田さんとも目があったら困るな、とか、しょうもないことを考えているうちに演奏が始まった。

 1曲目は、ライブアルバムにも入っている、おなじみ「B.B.STATIONのテーマ」。これねー、わくわくする本当に。そしてこの日は、目の前のサックスの生音が直接耳に入ってきた。目の前に本田さん、隣が鍬田さん、その隣は、バトルジャズビッグバンドを率いてらっしゃるアルト奏者の方ですよ。うしろのほうには、エリック宮城さんとか、中川英二郎さんとか、なんかもうそうそうたる顔ぶれが。しかし顔ぶれよりなにより、ホーンセクションがハモりながら動いてメロディを描いていく様子って、ものすごい。音圧もはんぱじゃない。耳栓持ってきたほうがよかったかなあ・・・ぎりぎり耳をふさがないでも我慢できるレベル。ドラムがよく見える場所とかいってリクエストしておいたくせに、サックスの生音というものにとにかくノックアウトされる。本当にうまいプレイヤーの生音というのは、海の近くで食べる刺身みたいな・・・言葉にできない。10時間ぐらい聴いていたかった。

 2曲目。"Stop the funk"。飛び出し系、とか本田さんは解説でいっていたけれど、リズムの裏で合わせる、つんのめりそうな曲。なんかこう、一気にバーっといけないでイライラしちゃうんだけど、このイライラ感を味わうための曲なんだろうな。

 3曲目。ガーシュウィンの「スワンダフル」の本田バージョン。なんか原曲のイメージとかなり違っていたなあ。華やかでキメが多かった。

 4曲目。"Fair Affection"。和音とリズムがひたすら気持ちいい。

 ここまで、桜井さんはウッドベース使用。サウンドも全体的にジャズ寄り。…でしたよね、と終演後に本田さんに確認したら、「いや、基本的に全部フュージョンだから」とおっしゃっていた。まあ確かにジャズじゃないかも。でもフュージョンの中でもジャズ寄りなビッグバンドサウンドでしたね、ここまでは。ピアノの佐山さんはごりごりしたジャジーなプレイで存在感。

 5曲目。エリックさんをフィーチャーして(私はいつもフューチャーだかフィーチャーだか混乱する。featureだからフィーチャーだと思うんだけど、本田さんはこのフィーチャーとかいう言い回しが好きなのか・・・)、"Dance to your heart"。ここから先は桜井さんもエレキベースに持ち替えて、ぐっと全体がポップに、フュージョン寄りにシフトする。この曲、すごく軽やかで素敵だった。

 6曲目。コンドレンス。スクェアにいた頃、本田さんがセナ追悼アルバムで発表した曲である。7曲目は、本田さんがソロになってから発表したChao!!!、8曲目は本田さんがスクェアに入ったときのアルバムの1曲目だった"Megalith"。ベース櫻井さんはフュージョン色濃い曲でのフットワークがさすが。地味な裏方系伴奏もよかったけど。

 この3曲は、5人のリズムセクションバンドで、思いっきりフュージョンしている形で発表されているものだ。でもこうしてビッグバンドで聴くと、非常に見事にはまっていて、もしかして本田さんの頭の中では、本来ビッグバンドバージョンのほうで生まれてきて、それをキーボードとサックスだけで頑張って形にしちゃっていただけなんじゃないか? という気がしてくるほど。

しかしフュージョン色の濃いナンバーでは、なんだか思いっきり演奏できてないな、しんどそうだなーと思う演奏者がちらほら。確かに、こんなに超絶技巧で複雑でお約束だらけの決まりの多い曲じゃ、リハを十分にできなかったという話だから、本領発揮できない人もいただろう。私が聴いたのは金曜の2ndだったけど、土曜になったら、このへんずいぶんと状況も変わったのかもしれない。

しかしこの障害物競走みたいなキメやらリズムやらを、びしーっとびっくりするほど決めてくれて、そこにさらにみんなが見事なソロなんかを次々に押し込んでくれたら、もう、開いた口がふさがらないほどのすごい演奏になると思うのだが。この日はそこまではいっていなかったかな、残念ながら。なんという欲張りなことを書いているんだろうか。生意気なことを書いてしまったが、しかしこのフュージョン・ナンバー3曲は、文句なしに素晴らしかった。スカーッとした。

私は長年則竹裕之さんのドラムを聴いて追いかけてきているのだが、やはり、本田さんと則竹さんという組み合わせは、ちょっと他にはない特別な何かがある。化学反応みたいなものがステージ上で次々に起こって飛んでくる感じ。改めて思ったのだが、本田さんのサックスの描き出すリズムというのは、なんと生き生きとして、魅力的で、おそろしく正確なことか。おそらく、このリズムに関する何かが、則竹・本田の組み合わせだと非常にうまい具合に響き合って、掛け算的な力が生まれるのではないか。リズムが持つ力というのはすごいものだと思う。
 
本田さんの作曲家、アレンジャー、プレイヤーとしての才能はどう見ても日本でもトップクラスというか、おそらくトップ。でもここ最近は、マリーンさんとのアルバムは出ていたけれど、自分名義のアルバムが出ていない。どういうことよ。私はアメリカにいたので事情がわからない。景気のせいもあるに違いない。ただ、去年もブルーノートでこういう形でビッグバンドをやって、今年もまたやった。私は去年、たまたま一時帰国していたので聴きにいったのだけど、去年もすごくよかったし、今年はそれ以上にものになっている。

これまでの本田さんの活動というのは、もろフュージョン路線だった。超絶技巧に、ポップな曲、それが大きな魅力だったし、私もそれに熱狂した。でも今、本田さんのビッグバンドで演奏されるフュージョン曲が、ものすごくエキサイティングで、タイトで、ゴージャスで、ものすごくしっくりくる。このビッグバンドを聴いてしまうと、5人編成のフュージョンバンドをいま一度やったとき、若作りで無理した感じに思えてしまわないか心配になるほど。

今度出る本田さんのアルバムがどういう形になるのか、それはわからない。でも、本田雅人という人の才能を、すごく今、時代の気分にも、そしておそらく本田さんの年齢、ファンの年齢的なものにも、このビッグバンドのスタイルは、うまく合っていると思う。

1997年の時点で、B.B.STATIONの最初のアルバムを六本木ピットインで録音していて(私も聴きに行った。まだ20代だった!)もう14年もたっているということ自体に、今になるとちょっと驚いてしまうけれど、でも、ビッグバンドの音って古くならないのだ。ちっとも。「メガリス」なんて、もはや20年前の曲なのだけれど、この日の演奏のなんと新鮮で躍動感のあったこと。ウェザーリポートの「8:30」を今聞いてもすごく生き生きしているけれど、それと同じような感覚。

とにかく、本田雅人B.B.STATIONには、もっともっとコンサートをしてほしいし、アルバムも作ってほしい。この2Daysで楽しかったね、で終わりにするのではもったいなさすぎる。そして、本田さんと則竹さんは、もっともっと共演してもらいたい。いろんな諸事情があるとは思うけれど、このふたりが一緒に演奏すると、本当にすごいリズムが生まれる。それを浴びると、元気になれる。

B.B. Station Live

B.B. Station Live