山本美芽の音楽ライター日誌

アーティストの取材執筆記録です。

上原ひろみ、アンソニー・ジャクソン、サイモン・フィリップス@東京国際フォーラムA 2011年12月4日

日本のツアー、初めて行ってきました、上原ひろみ。

東京国際フォーラムのなかでも一番広いホールA。5012席ですよ。
発売からしばらくたってあわてて買ったチケット、なんと最後列。天井のすぐそば。6階分の高さの吹き抜け。座席に座ってステージを見下ろすと、親指と人差し指で作った小さな輪っかのなかに、グランドピアノがおさまるほどに、ステージははるか彼方。こういうの、野外イベント以来かも。久しぶりです。しかも当日券発売はなし。ソールドアウトです。

ジャズピアノを聴くのに、これほどの人が集まっているということ自体、実際に見ると本当に衝撃的でした。

楽しみにしていた、ひろみの演奏。そしてサイモン・フィリップス。最初からいきなり飛ばしています。世界中をまわって日本をまわって、最後の最終日というのもあるんでしょうか。以前YOSHI'sで見たときよりも、ひろみはフォルテで和音を連打している時間が非常に長く、しかし指だけではエネルギーを表現しきなれなくなったのか、「けものスイッチ入りました」といった形相で、頭をぐるぐる回すは立って弾くわ、お尻をぶいぶい振るわ、右足を大きく上下させるわ、ひじ打ちはあるわ、なんだか凄まじい。Yoshi’sでは、ここまで炸裂してなかったなー。

いやいや、Yoshi’の収容人数は確か400人ぐらいでしたから、今日は5000人で、しかもドラムはオールラウンドとはいえロック畑から来たサイモン・フィリップスだし、違って当たり前か。とは思いつつ、彼女の素晴らしい音色やリズム感やメロディが印象に残っていたので、そこまで炸裂したければエレキギターの人を連れてきてぎゅいーんとやってもらえばいいんじゃないだろうか? ピアノでやるのは、手への負担があまりに大きすぎて腱鞘炎が心配だな、とか余計なお世話がいろいろ頭をめぐっておりました。要するに、あまりに迫力あるパフォーマンスに度肝を抜かれていたということでしょうか。

前半はあまりの飛ばしぶりに、ちょっと私は引いてました。

というか、彼女はジャズピアニストだという私の変な先入観がよくないんですよね。この日のひろみサウンドは、かなりロック入ってました。ドラムパターンだって、4ビートなものはそれほどなくて、8ビートに16ビートでしたもの。いや、それはすごくかっこよくて、良かったし楽しかった。しかし、ジャズを聴きにきたと思っていると、あれっ? ということになるわけです。ピアノから繰り出される高速フレーズの応酬、超人的なスタミナと正確さを誇る同音連打(指づかいは4321だった模様)、…まるでロックのアルバムを聴いていて「うおっ!?」と驚かされるエレキギターの速弾きみたいな感触でしたよ。決まったパターンを高速で繰り返して伴奏するのは、なんだかギターのカッティングとかリフみたいだったし。ピアノでこういう印象が与えられるなんて、びっくりしたなー。それにお客さんが「うおぉおおお」と喜んで反応してるし。ほんとにロックですよ。

いや、100パーセントロックというのとは、また違うと思います。ジャズの要素も当然あったし。だけどロック的なものが絶対今回は強かったなと、それは自信を持っていえますね。アルバムを聴いたときにそれをもっと強く意識してもよさそうなものだったんですが、ライブだとやはり音響的なものやソロの展開などで、鮮明になっていました。

クラシックじゃないピアニストはたいてい「ジャズピアニスト」とか、それしか日本語がないんですよね。「ジャズロックピアニスト」とか「ロックピアニスト」みたいな日本語はないですもん。だから「ジャズピアニスト」というふうに世間は見ているわけですけど、その言葉からはもう大きくはみ出しているなと感じました。

休憩をはさんで後半になり、「あっ綺麗だな」「いいメロディ!」「面白いソロ!」と思える時間がどんどん増えて、引き込まれていきます。炸裂する場面も良い割合になってきて(やりすぎでなく)、だんだんひじ打ちの瞬間、ひろみがアニマル化する瞬間を楽しみにしている自分が。なるほどねー、こうやってみんな、上原ひろみにハマるんだな。

休憩は15分ありましたが5時開演、8時終演。3時間ですよ。びっくりー。なんというスタミナ!!!!
でもあっという間に感じました。

私は急いで帰ろうとしてロビーまでエスカレーターと階段をひたすら下りて、やっとたどりついたら、なんとステージ前に集まってアンコールしていたお客さんたちの前で、ダブルアンコールしている模様がロビーのテレビに映っていました。うわ、やられたー。

しかしですね、世の中最近どこに行ってもCDが売れないとかお客さんが集まらないとか不景気な話ばっかりなのに、いったいこの熱気と人気は、いったい!!!???

国際フォーラムを満員にできるピアニストって、おそらく、上原さんのほかには、辻井さんとか、内田光子さんぐらいじゃないでしょうか、今。

なぜ、彼女がこれほどまでに人気があるのか。

彼女は本のなかで、宮崎駿監督の映画のあり方が理想だと語っていました。専門家も、一般の人も楽しめるもの。実現するのは本当に大変だと思うんですが、それをやりと
げているところにやはり人気が集まるのではないでしょうか。みごとなテクニック。すごくきれいな音色。わかりやすいメロディ。見事な構成。でもそれだけではない、激しいライブパフォーマンス。

ピアノでこういうふうに、エレキギターを弾くギタリストみたいに、ガガーンと炸裂して、5000人の聴衆を熱狂させることができるとは、この日まで私、想像したこともありませんでした。もしかして、10年後ぐらいには、ひろみフォロワーのピアニスト予備軍の中から、第2のひろみみたいな、炸裂系ピアニストが出てくるかもしれません。

やっぱり、みんな、お客さんは、ライブで「エネルギー」を感じたいんだな、とも思いました。そういう意味では、確かに、確実に、エネルギーが伝わってくる演奏でした。

サイモン・フィリップスのドラムは、パワフルで渋かったです。あれは太鼓類の皮をそれほどきつく張っていないのではと思うのですが、ガンガン、ではなく、ドスドスした音色で、シンバルなんかも、あまりキラキラしている音色ではなく、ジャーンとかシャーンみたいな、これまた渋い音色で。バスドラムが2つあって、ピアノの音が消えないように遠慮しているような感じではなく、かなり手加減なしに演奏しているように感じさせつつ、もちろんやはり、アコースティックピアノが主役というバランスは考慮していて、しかしサイモンならではのパワーと知性は遠慮なくプレイされていた、といったところでしょうか。ブラシで繊細なプレイをしていたときが、辛口なんだけど立体的な陰影があるというか、要するに、とっても素敵でした。

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