山本美芽のフュージョン・ダイアリー

音楽ライター山本美芽によるジャズとフュージョンについての取材日記です。

塩谷哲さんのスーパーソルトバンド@ブルーノート東京 2013年5月17日 2nd

ブルーノート東京で行われた、ピアニスト塩谷哲さんの
「スーパーソルトバンド」の公演に行ってきました。

セカンドセットは、夜の9時半スタート。

スーパーソルトバンドって、なんでただのソルトバンドじゃないの?
それは、ソルトバンドのときとは、メンバーが違うから。

これは、雑誌などのインタビューではひとことも語られていないので私の勝手な推測ですが。

ソルトバンドのギタリストだった浅野祥之さんが天に召されたため、カッティング名人で、とにかく気持ちいいグルーヴを追求して疾走するという方向性が、たぶんそこでいったんストップしたのではないかと思います。

塩谷さんは、ピアノトリオで、ジャジーな体裁をとりつつジャズの枠にはまらないアルバムを何枚もリリースされましたが、やっぱりソルトバンドが持っていたポップな楽しさと、ジャズの中でのインタープレイの面白さみたいなものは若干方向性が違うのかなと。

塩谷さんのファンというのは、とても耳の肥えた方々なんですが、いわゆるジャズファンというのとは、ちょっとまた音楽に求めるものが違っているというかジャズでない塩谷さんの部分を大事にしてきた方々でもある。

そんな経緯でジャズのフォーマットではしばらくいろいろ活動したし、またソルトバンドでやってみよう、ということになったのだろうと、推測します。


トリオにはない、スーパーソルトバンドならではの点。いろいろありますが、ギターとパーカッションが入っているのが一番大きいですね。

パーカッションの大儀見さんはソルトバンドのときにもいらっしゃいましたが、ギターの田中義人さんは、スーパーソルトバンドになってからのメンバー。

ドラムも、とにかくグルーヴ!だった沼澤尚さんからオールラウンドにスーパーな山木秀夫さんへ。

そして、ラテン色が強く、楽しくてグルーヴ重視であった以前のソルトバンドに比べて、
今回のスーパーソルトバンドでは、ラテン色やジャズ色が薄まり、ロックやクラシックの色が濃くなっていました。

グルーヴはもちろん気持ちいいけれど、グルーヴ以上に、曲ごとの世界であったりストーリーの構築に重点が置かれていました。



今回、ソルトバンドのころに人気のあった、ラテン・タッチの軽快な楽しい曲はアンコールの「PATIO」とか「Beauty and Brilliance」とか、少なめ。

もっとロックに炸裂する「SUPERSTITION」とか、「Magma in your eyes」、
ストーリーを感じさせる、長大な「Arrow of time」、
クラシックとスカのリズムが並行している「Entropy」
などなど、ずっしり重めの聴き応えあるナンバーがメインになっていました。

この「ずっしり」路線、おそらく塩谷さんには、新境地。

ギターがロックなディストーションで炸裂しちゃって、ピアノが聴こえないと思ったら、両手のオクターブユニゾンで、縦横無尽にガンガン鳴らして対抗。
ラフマニノフかチャイコフスキーのコンチェルトのソリストみたい。

これまで、もっとキレイで繊細、ノリのいい演奏が塩谷さんのピアノだと思っていたので、こういうパワー系のプレイを塩谷さんがやってくれたのは正直びっくりしました。上原ひろみ方面に行っちゃうの!? みたいな。これは面白かったです。

意地悪く言えば、ソルトバンド時代にきわめたラテンな楽しいナンバーの完成度の魅力に、スーパーソルトバンドのずっしり系・スケール大きなナンバーは、まだ追いついていないかもしれません。

でも、新しい扉を開けて進んだ手ごたえは確かにありました。
去年のブルーノートでのスーパーソルトバンド公演では、ソルトバンド時代のラテンな楽しいナンバーをたくさんやってくれて、それはすごく良かったけれど、でも、新しいものが聴きたいなと思ったんですよね。

新しい道を、一緒に進んでいきたい、そんなリスナーとしての楽しみは充分満たされた気がします。





新しいアルバム、「アロー・オブ・タイム」は、「時間の矢」という
意味。

一度過ぎてしまった時間は、もう元に戻らないし、 年齢とともに、時間に対する感じ方もまったく変わってくる、

そんな思いが込められていると、塩谷さんはあちこちの取材で語っていらっしゃいました。

ファン向けの会報も拝読したのですが、そこで知ったのが、塩谷さんが、小学6年生のときにお母様を亡くされていたこと。お母様は40歳だったそうです。

そのときのお母様の気持ちを今になって想像できるようになったと書いていらっしゃいました。

音楽家としての自分を語るうえでは、おそらく重大なことであったはずなのに、雑誌の取材などではあえて語らず、ファン向けの会報で、さりげなく書いていた。そのスタンスが、また、潔いなと。

過ぎた時間が戻らないこと、

年齢とともに、時間の過ぎる感じ方が違ってくること、


当たり前のことですが、ライブで演奏されたこのアルバムの曲、そして帰り道にipodで、 塩谷さんのこのアルバムを聴きながら、それをぼんやりと考えていると


今ここに自分がいることが奇跡的だし

過去が戻らない以上に、未来が自分で選べることも
奇跡的、

…といような気がしてきます。


2007年、塩谷哲さん「アーセオリー」発売当時の私のブログ記事。
「弱い音にもいろんな音がある」
http://d.hatena.ne.jp/mimeyama+writer/20070418/1176880167

アメリカにいながら一生懸命情報収集して書いてました。アルバムも日本から
送ってもらって聴きました。


アロー・オブ・タイム

アロー・オブ・タイム