山本美芽の音楽ライター日誌

アーティストの取材執筆記録です。

「吉田兄弟×レ・フレール」

以前、コンサートで聴いて、その幻想的な世界が忘れられなかった…

レ・フレールと吉田兄弟のコラボアルバムがついに完成。

 

レ・フレールのオリジナル曲は、花鳥風月を思わせる幻想的な「シャクナンガンピ」、「JOKER]などのお祭りの強烈なビートなど「和」を表現したものが結構あります。それと吉田兄弟の繊細で鋭く、はっとするような間を表現する三味線が、合わないわけがない。時間を彫刻するような鋭さのある三味線を、ふんわりとピアノが包み込むような場面が沢山あります。

 

吉田兄弟は、「RISING」などのロックな8ビートの曲を作っています。レ・フレールも斎藤守也さんが「パラレルワールド」などでロックテイストを作っていて、それぞれの解釈がぶつかりあって共鳴、とバンドっぽい格好良さが爆発的に出てくる。ジャズっぽい即興があるときはスリル満点に、あるときは対話のように入ってくる。

 

新曲の「転々」は、レゲエのような後うちをピアノが弾き続ける中、淡々としたメロディを三味線がつまびきます。余白を効果的に使い、うつろう音。一瞬にして曲の世界に引き込まれる、不思議な感覚。

 

三味線2丁とピアノの連弾で4人のアンサンブルは、おそらく史上初の編成と思われます。そこで浮かび上がったのは、

 

ロック。幻想的。和。間合い。ブルース。鋭さ。柔らかさ。インタープレイ、かけあい。

 

ピアノと三味線。アコースティックな弦楽器だけで表現される音が、音の立ち上がりから消えるまでを筆で描くように、はかなく、味わい深く、力強く。

 

発売からもう1か月ほど繰り返し聴いていますが、まったく飽きず、まだまだじっくりと味わっていきたい作品です。

 

 

 

 

かつしかトリオ 2021年10月21日 ビルボードライブ横浜

かつしかトリオ

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芸人さんみたいなネーミングですが・・・神保彰さんのソロに、向谷実さんと櫻井哲夫さんが参加したトリオ。かつしかシンフォニーホールのコンサートがきっかけで結成されたのが由来のようです。

 

この3人、昔はカシオペアのメンバーで一緒に活動されていました。それぞれメンバーチェンジしてバンドを離れて、この3人では33年ぶりに一緒に演奏なのだそうです。同窓会っていうのはすごいもので、何の違和感もなく自然そのもの。聴く側も自然そのもの。爆

 

最初と最後は、神保さんのワンマンオーケストラの曲、中盤はカシオペア時代の名曲をたくさん演奏してくれました。神保さんのミッドマンハッタン。中盤のドラムソロがくると「おおおおお!」と叫びたくなってしまう…何度聞いても。そしてサニーサイド・フィーリン。向谷さんがエレピで軽快に優しく弾くあのメロディ、淡々と温かく刻むドラム、なんともいえず良い感じで動くベースライン。はい、泣いてました。涙が止まらない。良すぎる曲ばかり・・・

櫻井さんのセイリング・アローンも、出だしだけでもう「うおおおお」とぐっときてしまいますね。向谷さんの「コロナ」。これカッコいいラテンナンバーで本当にライブが盛り上がる。タイトルがウイルスと同じ名前になっちゃったけど格好よさは不変。

・・・と、カシオペア時代のナンバーに夢中になったり涙ぐんだりしていましたが、「バンバンバン」や「上を向いて歩こう」といった、神保さんのワンマンオーケストラらしいカバー曲も演奏していました。これらは、30年以上前のカシオペアの曲のような「うおおおお!」みたいな同窓会的な要素はないですけど、じわじわじわといい感じで聴ける。

 

この3人が演奏しているときのリズムの流れの圧倒的な心地よさ、自然さ、楽しい気持ち、何かワクワクする感じ。圧倒的です。

 同窓会としての満足感は十分にありつつも、新しさ、面白さ、旬な感じも非常にあって、今回は音頭をとっている神保彰さんのこれまでの圧倒的にクリエイティブなご活動がうまく牽引力となっているプロジェクトだと感じました。

 

 「また来年もやります」とおっしゃっていたような・・・。和泉さんが世を去り、安藤さんもスクェアから引退、スクェアのリユニオンというのがこれまでの形ではできなくなって、寂しかったところに、かつしかトリオの3人の音は、ほんとうに、心の隙間というかひび割れていた場所を、ふわっと包み込んでくれて、楽しくて、ワクワクして。しかも、いまなおさらに格好よくて魅力いっぱいのお三方の姿を間近にすると、自分もがんばろうと、ものすごく前向きな気持ちになりました。素敵な時間でした。

 

 

 

 

 

 

ギターサミット ブルーノート東京 10月1日

ビーイングのギターサミットをブルーノート東京で。

ジャズジャパンで取材してきました。11月売りの号にレポートが載ります。

増崎さんは長年聴いていて、AKIHIDEさんは以前もライブで拝聴、でも五味さんと柴崎さんはたぶん初めて。4人の伝説のギタリストが並ぶととても豪華で重厚感があり・・・雑誌に書けないマニアックなたとえでいうと、私はオットットリオを思い出しました。あちらは野呂さん安藤さん是方さんの3人ですけどね。ギターサミットはさらにロック寄りで歌心があり

 

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伸びやかでした。

 

私はギターの専門的なことはわからないけれど、でも、本当にギターは、幅の広い表現力のある楽器。ピアノにはない自由さがあって、大好き。

 

 

レ・フレール スペシャルコンサート オーチャードホール 2021年9月

久しぶりにレ・フレールのコンサートへ。

以前は最低でも月に1回ぐらい、多い時は月に2・3回は行っていたのですが

5月の鎌倉で聴いてから、フルサイズのコンサートは久しぶり。7月の立川はフェスなので短かったですしね。

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まずは守也さん、圭土さん、ご兄弟がマスクなしで登場。おそらくコロナになってから初、ふたりそろってマスクなしのステージ連弾。

 

マスクしてないだけで何かやっぱりうれしい。表情が見えるし自然だし。

 

「オーシャン」「ウーシーブギ」と、初期のナンバーから開始。どうやら結成19年なのでヒストリーっぽく全アルバムから拾う形のセットリストなんですかね。

「ザ・ギャンブラー」「悪魔のしっぽ」「クロス第2番」「狂想曲」

ライブでわりと最近よく聴いている曲が多いかな。すごく安定感がある。

「ザ・ギャンブラー」はスイングなノリとか即興っぽいやりとり、「悪魔のしっぽ」はロックな独特のリズムのノリ、「クロス第2番」はクラシカルな澄んだ柔らかい響きづくり、「狂想曲」はかなり混みいったリズムで狂った想いを切迫感を持って・・・どれもキャラクターがくっきりと描かれていました。

 

ここで吉田兄弟が登場。9月末に発売するコラボアルバムで共演しているので本日はゲストとして3曲コラボを披露でした。

吉田兄弟。登場するだけで、ゆったりと隙のない歩き方が本当に絵になる。三味線の調弦がはじまるとビーンと空気が張り詰めていく。間合いが鋭い。

まずは吉田兄弟のオリジナルで、「RISING」。ロックなナンバーなので、レ・フレールだと守也さんの得意な感じ。バンドサウンドをピアノならではの低音やハーモニーで作るようなアプローチです。

続いて新作から、圭土さんの「BUSHIDO」。悲しくも美しい雰囲気のヒロイックな曲調。まるで戦国時代を舞台にした時代劇で落城を目の前にした殿と家臣たちみたいなイメージが浮かんできます。なんで?と思いたくなる理不尽なことにも耐えて前に進む辛さみたいなものを美しく表現していると感じました。三味線の間合い、繊細な余韻、力強さが、ピアノと融合して華麗な世界を構築していました。

コラボ3曲目は「JOKER」。これはレ・フレールの定番曲ですけど、MCでお話があったとおり、もともと三味線の曲だったんじゃないか?というぐらいハマっていました。フレーズや音感がとても三味線っぽい。何かやはり通じ合うものがこの二組の兄弟にはあったのではないかと思ってしまう。

3曲ではとても聴き足りないですが、吉田兄弟の華麗でパワフルな面、そして吉田兄弟とコラボするときに見えるレ・フレールのふだん見えない一面など、いろいろな面で楽しめました。しかし吉田兄弟の弟、健一さん、お話がうまいわ・・・。

 

ここからソロコーナー。守也さんは「イーグル」のソロバージョン。ミミレミのパターン・・・? あ、これはCHASEのパターン?「山の音楽家」の終盤パターンもあったな・・・ミを連打していく、大自然を思わせる深みのある響きがホールの雰囲気に合っていて見事でした。今日はホールのベーゼンドルファーなのかな、、だから内部奏法を使っていないのかも。

 

圭土さんソロは「桜」。何度聞いてもいい曲です。美しくてしっとりとした響き。

 

終盤は盛り上がりコーナー。フォー・キッズ、ディズニーランド・メドレー、ブギウギ即興、オニヴァと怒涛のように。手がスクリーンに映し出されていたのがとてもよかった。ポジションも頻繁に入れ替わるお二人ですので、いまメロディを弾いているのは守也さん、圭土さんと、すぐわかるので、それを見ながら「そっか、このフレーズは守也さん・・・ここはあんがい、さらっと歌うんだな」「このフレーズは圭土さんね・・・うわ、めちゃくちゃ指動いてるわ」等々の楽しみがあります。このあたりも最近たくさんライブでやっていたので、すごく弾き込まれていて迫力満点です。

 

ラストは「賛歌 四海兄弟 One Heart FOur Voices 」から「出発の時」へ。力強くてキラキラした音がホールに満ちていく様子はレ・フレールのライブならではでした。

 

アンコールは「ドス・カバッジョス」「Boogie Back to YOKOSUKA」スリル満点で熱い演奏でした。2時間たっぷり聞けて、大満足でした。

 

アーティストはみんなそうですが、誰かとコラボすると一皮むけたというか、ちょっと違った雰囲気になっていきます。それから、ツアーで何十本とか演奏すると、ツアー前とはまた違った音になります。特に変わろうとしていなくても、自然とそういう変化が起きていく、その様子は見守っていると興味深いものです。

 

レ・フレールは、オリジナル・アルバムを数年にいちど出すので、私が昔から聴いている、、たとえばスクェアとかTRIXとかディメンションといったフュージョン系のバンドが毎年のようにアルバムをリリースしているのに比べると、アルバムの枚数は少ないと感じます。フュージョン系が「多い」のかも、、

 

ただ、毎年アルバムを出していると、曲の量が多くなるので、アルバムは出したけど全然演奏していない曲というのが出てきます。レ・フレールはそれがあまりなく、発表した曲がどれもしっかりとレパートリーとしてライブで演奏されている、これがとてもいいなといつも感じています。

 

デビュー当初から弾き続けてきた曲がいまも非常に説得力を持って、アレンジを変えているわけではないのに、新鮮に聴ける。これはオリジナル曲としてすごいことだと思います。

 

あまり時代や流行に関係ないスタイルの強みかもしれませんが、オリジナル曲でこれを達成するのは並大抵のことではないでしょう。時間のふるいにかけられると本物が残ります。

 

早くコラボアルバム聴きたいです。

 

 

 

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狭間美帆 m-unit ブルーノート東京 2022年9月18日

狭間美帆さんの m-unit の公演に行ってきました。

ラージアンサンブルの音がとにかく心地よくてスリリングで、至福の時間。

新作はデンマークのバンドと録っているので、m-unit とはまた別なのだと思いますが、

m-unit なるほど。さすが。面白い。世界的に活躍とかそういう枕詞は私はあまり好きじゃないんですけど、そういう世間の評判とは切り離して自分自身の好みとして、面白くて深みのある音楽で、好きでした。

こちらもジャズジャパンでレポートします。

TRIX 築地ブルームード 2021年9月16日

京都、名古屋、東京2DAYSのミニツアー、東京の初日にジャズジャパンの取材で行ってきました。熊谷・須藤・AYAKI・佐々木の4人のサウンドはご機嫌で、テンションがグイグイとあがる至福のひととき。詳細はジャズジャパン次号でレポートします。

 

新作「RING」ずっと聴いています。熊谷さんは最近、シーケンサーを使った独自の路線に向かっていて、それは伝統的フュージョンとはまた違うのかもしれないけど、基本的には現在の日本のフュージョン、音でエネルギーを伝える力が最も強い、そのトップ集団にいるのがこのバンドだと改めて感じています。

 

斎藤守也年男記念 Moriya48 -サマー・ライブー 9月1日収録配信

夏になるとピアニスト斎藤守也さんのソロライブがあって毎年楽しみにしています。

今年は横須賀のヤンガー・ザン・イエスタデイ(YTY)からの配信ライブ。

 

セットリストは斎藤守也さんのインスタグラムから拝借して書いています。

これからアーカイブ観る方はネタバレになるのでご注意ください。

 

 

 

 

配信ライブ最近すごく多くて、可能な限りチェックしていますが、リアルタイムの時間は晩御飯前後になってしまい、落ち着いて見られないので、ほぼ、アーカイブで観てます。夜中とか朝とか、午後早い時間が多いですね。ということでこちらのアーカイブもやっと全部見られました。

 

熱いセットリストでした。ロックと、あとジャズ風味が、いつになく濃かった。前の週にレ・フレール  は名古屋でジャズフェス出演でしたね。

 

画面に守也さんが現れたら

いきなりOn y va!の新たなアレンジでテンション高く始まり、

もののけ姫をドの音をミュートしてずっと、「ターンタタン」のリズムで刻み、森の中の雰囲気たっぷり。

ルパン3世のテーマは非常にジャジーでした。バラードの「その2」から始まったときは「あれ?FLOW?」と一瞬思った…オリジナルかと思うような自然さ。そこから、おなじみの疾走するテーマ「その1」へ。これはOn y Va! の左手のパターンで伴奏している難しいながらも守也さん曲の大定番アレンジですが、これがしびれるほどリズムが格好よくて。左手だけでスネアが2・4拍目に入っているようにダーン!とピアノが鳴るんですね。

低音のパワーを生かすとまるでドラムセットみたいな音がする。ピアノって。途中即興パートもあってすごいジャズでした。

 

一息ついて、「ピアノの本」に連載されている新曲。「たんぽぽ」がまた非常にスイングしていて私としては好きな感じ。

 

中盤、ぐいぐい攻める曲が続きます。レ・フレールの「サマーナイト」のソロバージョン。山口百恵ちゃんの歌謡曲みたいといつも思う。横須賀のライブハウスで、似合いすぎる。「FLOW」はYTYのスタッフの方が好きな曲なので、YTYではよく演奏されています。しっとりとした情緒とキラキラした音の粒、ビートのうねりに圧倒されます。

そこからOROSHI、いつかの空、と続きます。ライブを聴いているんだけど何か旅でどこかを歩いて景色を眺めているような感覚になってきます。

前半最後は、ノートルダムの鐘。スケールが大きくて迫力あって聴きごたえあり。例えるなら、散歩していたら現れたすごい建物。聴き終わると、ふう、と大きく息を吐きたくなるような。

 

トークコーナー。過去の年男だったときを振り返るお話。24歳の頃にいろいろなバイトをしていらした話が特に面白かった。ピアノを弾くホールスタッフのほかに、お掃除の仕事をしていたそうで。守也さんの曲を弾きこなすには、ゆっくり丁寧に片手ずつ丹念に仕上げていくことが欠かせないのですが、それと、お掃除のバイトというのがなぜかすごく結びついて納得。完璧にきれいに仕上げていそうな・・・・。

 

後半は、「キャトル」収録のギリシャをテーマにした組曲「ムッシュグレコ」をソロバージョンで。これ、最高でした。連弾バージョンでは守也さんが両手を使って連打してマンドリンみたいな音を出していますが、それを右手のトレモロでうまく表現して。もう気分はエーゲ海を見ながらカフェで夕暮れにワインを飲んでる・・・そんな気分のご機嫌なサウンド。

終盤は、怒涛のロックナンバーメドレー「トップギア」「大風車輪」「DDROCK」。録画なので何度でも巻き戻して細かいところとかチェックできちゃうんですけど、どこをどうみじん切りに聴いても、このロックビートは本当に超絶技巧で、ビート感が圧巻。なかなかこれを弾くのは誰にでもできないけどピアノ1台でロックビートってホントに出せるんですね。しかも低音がガーンと響いて共鳴する独特の心地よさ。ああ、生音だったらどうなるんだろうか?

 

〆は爽やかに「一本道」。広がる音の粒がたまりません。

ディズニーメドレー「クラブイクスピアリ」で賑やかに終わりました。

 

聴けば聴くほどYTYの白いヤマハ、いい音で鳴っています。スマホのイヤホンで聞くと最高。

 

アーティストとしてとてもいま脂がのっている時期なんだなと思いました。それなのにお客様入りのライブができないのがほんとに歯がゆい。無観客だから、いつものライブのように「そんなに無茶苦茶に弾きまくったら手を痛めそう」と心配なる場面こそなかっだけど、熱さの中にクールな部分を保ったとても完成度の高い演奏。レコーディングとライブの中間のような部分もあるのかも。

有観客ライブができないのは寂しいけれど、こうして映像に残していくことも、とても意味があると感じています。

 

来月のオーチャードホールでは、有観客の生音で聴きたいです。吉田兄弟さんもゲストに出演するそうだから、楽しみ。