山本美芽の音楽ライター日誌

アーティストの取材執筆記録です。

T-SQUARE 渋谷公会堂 2012年8月4日

ひっさびさに、T−スクェア(以下スクェアと略)のコンサートに行ってきました。今回は、小学校4年の娘を連れて、初の親子参加! 私は1989年からアルバムを聴いていて、初ライブは1991年でした。


きょうの渋谷公会堂。いったいいつ以来なのか…客席など内装はきれいになっていました。古いホールのはずだけど、さすが渋谷だなあ。立川のホールは昔のまんま改修されてなかったのに。

今のスクェア。リーダーの安藤さん、サックス伊東さん、そして40代に突入したばかりのキーボード河野さん、バリバリ20代若手のドラム、坂東さんがメンバー。私がアメリカに行く前にこの顔ぶれになって、ずっとアルバムは日本から送ってもらって聴いていましたし、一時帰国した2010年には安藤さん・河野さんに「時間旅行」についてCyberfusion http:://jazzzfusion.com でもインタビューさせていただいていました。でもこのときはライブの前にアメリカに戻ってしまってライブは聴けなくて。

とにかく行ってみようと思い、チケットはとりましたが、正直いって不安でした。もちろん、アルバムが良かったからライブに行こうと思ったんですよ。でも、実際に行ってみたら、なんだかつまんないなぁ、と思ってしまったら、どうしようって。

最近なんとなくストレートアヘッドなジャズとかクラシックが面白くなっちゃっているし。フュージョンが嫌いになったわけでもないんですけど。

結論から言うと、まったくの杞憂でした。ツアーファイナルのこの日、最終日らしい完成された、瞬間最大風速のような、バンドの爆発力みたいなものを感じることができました。

最近のスクェアは、長年「やっぱり安藤さんの曲だよね」という空気がアルバムをつくるごとに強かったのが、若干様子が変わってきて、坂東さんと河野さんが、いかにもスクェアらしい、安藤さんの曲に対抗するような曲を次々に書いています。伊東さんが歌いやすい音域、安藤さんのギターの魅力を引き出す曲、そこまで考えて作られているそうで。

こうした楽曲をライブで初めてじっくりあれこれ聴きましたが、とにかく安藤さんのギターが素敵で、もう、惚れ惚れしてしまいました。ディストーションをかけるときの音のゆがみ方が、すごくエネルギーがあって、でも細部まで完璧に計算されていて。音色もゆがみ方もリズムも、音のひとつぶひとつぶが、カッコいい。そしてどんな曲でもギターの演奏が、目立つときも目立たないときも、楽曲全体の性格を決定づけていました。

スクェアの魅力っていうのは、実はやはり、安藤さんのギターそのものだったのかなあ・・・なんて思いながら聴いていました。そういえば、「時間旅行」のインタビューで、河野さんが、安藤さんにはものすごく注文をつけちゃうんだという話をしていました。ギターへの思い入れがあるんでしょうね。

この日の選曲は、坂東さんによるものだそうです。昔懐かしい曲、「ハーツ」「コントロール」「明日への扉」「ナイツ・ソング」そして「トゥルース」も!! 伊東さんの「明日への扉」なんて聴くの初めてだったりして。ハーツが入っているあたり、なんとも古参のファンの聴きたい曲がちゃんとわかってるんですね、坂東さん。

キーボードの河野さんは、和泉さんの残した素敵な部分はとても大事にしながら、ご自分の魅力をすごく出していました。ピアノをきらびやかにアルペジオで弾きまくっていた様子が印象的でした。パソコンに打ち込んだシーケンサーも、とにかくセンスがあって計算されていてカッコいいです。和泉さんとは別のタイプだけれど、オーケストレーションという意味でのアレンジの才能があって、それが効いているのかな。

坂東さんは、とにかくいつも2拍目と4拍目のスネアがよく聞こえていて、大きな流れが印象的でした。ですので、8ビート主体だった「ザ・スクェア」のころの曲に、とてもマッチしているのですね。でも、テクニカル路線になった本田さんがいたころの「T-スクェア」の小難しい曲も、完璧に叩いていました。いろんな小技もきっちりやっているけれど、やっぱり大きな流れにすごく意識がいくドラミングでした。これが最近のスクェアのアルバムを聴いて、なんだかすごくキャッチーで覚えやすいなって思う理由のひとつかもしれません。


昨年は坂東さんの坂東バンドが、スクェアの前座として演奏したそうですが、そのとき来た人! といって、拍手していたお客さん、8割ぐらいいましたね。そっか。みんな、毎年、できる限りスクェアのコンサートに来るって感じのお客さんがたくさんいるんですね。だいたい開演前の拍手の勢いからして、ちょっとこれはすごいなって思いましたもの。

いまのスクェアで、お客さんを満足させるって、ものすごく難しい方程式を解く必要があります。来年が35周年ですから、古参のファンの期待を裏切ってはいけない。でも、マンネリで昔と同じでもいけない。しかしお約束は入れないと、一体感が得られない。最近の曲でも楽しませたい。ぜったい無理、となってもおかしくないのに、方程式は、見事に解かれていました。

まったく衰えを感じさせず、大人っぽい渋い要素も加えてくれる安藤さん伊東さん、新しいエネルギーをバンドに注入してくれる河野さん坂東さん。35周年を来年に控えたスクェアは、とても聴き応えのある、温故知新とでもいうべき、エネルギーと奥行きのあるバンドになっていました。

一緒に連れて行った娘も、途中ちょっとは飽きたようですが、トゥルースでこぶし振り上げをしたり、手拍子をとったり、とても楽しんでいて、来年も一緒に来るよ! といっていました。

改めてスクェアの音楽を聴いてみて、ほんとうに独特な、オリジナリティのあるスタイルを持っているなあと思います。ジャズの棚にあるのだけれど、即興はやっぱり少ない。ものすごく構成を考えて、作りこまれた楽曲。音楽の語法はクラシックではないけれど、クラシックにも通じる作りこみようがあります。それでいて、歌心を一番大事に考えていて、鼻歌で歌えるような、耳に残るメロディが必ずあって。ジャズやロック、ポピュラー、クラシックの要素を独特の美意識で、スクェア独自のスタイルに消化しているんですね。

35周年では、スペシャルメンバーを呼んでの企画があるのかな? 今から楽しみです。

WINGS(初回生産限定盤)

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