兄弟ピアノデュオユニットとして活動するレ・フレールの兄、斎藤守也によるピアノソロ作品。内面に向き合うような前作「モノローグ」とはまた気分を変えて、今回は彼自身の多彩な音楽性をそのまま表現したかのように、楽曲がカラフルに並んでいる。
キラキラとしたピアノの高音を使った曲がいくつかある。①「カルーセル」は懐かしいアンティークのガラス細工のような風合い。⑧「風花」は少し華やかに動きを持って。④「SHINE」は淡々と刻むパターンが鼓動のようでもあり、悲しみと不安に寄り添うかのよう。
メロディを中音域で歌う楽曲もある。②「いつかの空」は、空を見上げたときに、ふとこみあげる気持ちがうまく投影されている。⑪「野暮天ブルース」は、淡々とした和風なブルース。情けない自分を笑い飛ばしたい、そんな気分。⑨「CITY BLUE」と⑩「IN THE RAIN」は、80年代のシティ・ポップスのごとき憂いがあってエレガント。これらのメロディアスな楽曲は、歌詞をつけたらポップスにもなりそうな気がするが、それをピアノ曲として完成させているところが斎藤守也ならでは。聴きどころでもある。
クラシカルな③「COLZA」は、ベートーヴェンやシューマンを思わせるハーモニーに、自由な歌い方で、ルクセンブルクでクラシックの修行をしていた彼のバックグラウンドが表れている。
アルバム最後に大曲が3つ。⑫「SHINRA」は輝かしい黒鍵グリッサンドで幕を開け、日本の民謡的なリズムに、和風なハーモニーでピアノを鳴らし、うねりのような不思議なサウンドは圧巻。⑬「BANDIDO-踊る影‐」は、若き日にスペインを訪れたときの印象や出来事を描いたもので、エキゾチックにはじまり、劇的に展開していく。なんと1曲10分という大作だが一気に聴かせる。終曲「一本道」はフォークギターのようにピアノが爽やかなリズムを刻み、ベーゼンドルファーインペリアルの音がまばゆく広がる。
タイトルの通り、聴いていると、自分の記憶の中からさまざまな風景や思い出がよみがえってくる。おそらく、記憶を呼び起こすためのスイッチのようなものが曲に仕掛けてあるのだろう。曲の世界を思い描きながら、じっくりと聴かせてもらっている。
(山本美芽)