金曜日の朝、車を運転しながらキャピタル・パブリック・レディオを聴いていたら、「昔ジャーニーでも叩いていたスティーブ・スミス… はーい、スティーブ」といってスティーブ・スミスの電話インタビューが始まりました。ふだんはニュースとかやっている固めのラジオ局なのに、ええええいいったい!!?
土曜日にサクラメントのレッドライオンホテルにあるJB’Sラウンジというところで、スティーブスミスのライブがある、ということで、その宣伝でインタビューをしていたのでした。
大急ぎで調べたところ、今、スティーブは、インディアンフュージョンの「ラガ・バップ・トリオ」で全米ツアー中なんですね。ニューヨークのイリディウムでも、オークランドのYoshi'sでも公演して、前日はサンディエゴのラ・ホヤ(2週間前に私行ったばかりです)、そして土曜日にはサクラメントに来て、日曜日はサンフランシスコから太平洋沿いに抜けたところにあるハーフムーンベイというスケジュール。
大急ぎで、駐在妻友達で音楽好きで車の運転が得意なMちゃんに電話して一緒に来てもらうことにして、交通手段も確保。
スティーブがステップス・アヘッドで叩いていた頃のプレイ、ほんとうに好きで聴きまくっていましたので、なんという夢のような千載一遇のチャンス!!!!
さてこのRaga bop trio ラガー・バップトリオは、スティーブ・スミス(ds)に、インド人の凄腕ギタリスト、プラサンナと、ジョージ・ブルックス(sax)という3人編成。
彼らのオフィシャルサイトにライブ映像がたっぷりあって、そこでほぼライブのおいしい部分が見られます。そこを見ていただくのが一番かとは思いますが、いちおう私の感想など。
まず、このギタリストがすごいです。もじゃもじゃ頭で、ギターの音も、ときどきパットメセニーかと思うような幻想的な音を出すんですが、かと思えば、これはギターじゃなくてシタール(インド音楽で使われるギターに似た楽器)でしょう!!? としか思えないプレイが続出。メロディやソロを弾くときに、左手がネックの上で、1音ごとにスライドして音程を揺らしている。全部の音じゃなくて、ちょっと長めの音符だけですが。これが非常にインド風な幻惑的なムードをかもし出していて素晴らしい。
また、1本の弦をずっと低音として鳴らしながら、ほかの弦でメロディやソロを弾く、これもシタールっぽいんですね。これもほんとうに名人芸の域でものすごい迫力。チューニングを何か変則的にしているのか、そこまでは私にはわかりませんでしたが。じゃあギターじゃなく、シタールを弾けばいいんじゃないか? というわけではなく、曲によっては普通にアルペジオを弾いてサックスの伴奏をしたり、低めの音でベースがいない分のベースラインみたいなものを弾いていたりと、とにかく変幻自在のギターなんです。
また、スティーブの超強力なグルーブを土台に、インド風な超絶技巧フレーズをプラサンナのギターと、ジョージ・ブルックスのふたりがユニゾンして長い間突っ走る箇所は、もう、鳥肌もの。この変態っぽさと超絶技巧な感じは、ステップス・アヘッドを思い出さずにはいられません。
プラサンナの凄腕ぶりがとにかく目立つライブでしたが、スティーブのドラムも、やはり凄かった。鉄壁の職人ドラマーといわれていた人ですけれど、とにかく、ライブの間、彼のドラムのほうに意識をゆだねると、すごく安心していられました。ひとつひとつの音があるべき音色にあり、すべての音と音が、見事な絵を描くような完璧なバランス。
それがさらに、ドラムの音全体が、ひとつの生き物であるかのような生命感。マレットを使って、音色をソフトにしたうえで手数を多めに叩いていた曲もあり、超タイトにテクニカルな妙技を披露してくれる曲もあり、とにかく、全部の音とリズムが、完璧!!!! としか思えない…。永久に聴いていたかったです。
遠目でいまひとつはっきり見えませんでしたが、タブラ(インドの小さな手で叩く太鼓)を叩いていた箇所もあったと思われます。鈴とか、木の実をたくさん集めてぶらさげてかしゃかしゃと鳴らすパーカッションなども使っていました。
ライブの最後に、やってくれたのが、プラサンナとスティーブの口タブラ。タバタバタ、タバタバタ、みたいなタブラのフレーズを超早口で歌いながら楽器も演奏しています。ヴォーカルとも楽器とも違う面白さで、すごく楽しめました。
ドラム・サックス・ギターという身軽な3人編成で、全員が超絶技巧の持ち主だと、音と音がぶつかりあうことなく、自由度が高く、物足りなさもまったくなく、とてもちょうどいいバランスでした。しかし、ギターのプラサンナが、ソロもとればサックスの伴奏もするし、ベースラインも弾くし、インド風もあり、そうでない普通のジャズ風もありと、強い個性と超絶技巧と柔軟さを備えているのが大きい。
彼のようなギタリストなしには、不可能な編成かもしれません。スティーブのドラムを堪能したい私にとっても、この3人編成が最高によかったかも。ステージの並びかたも、左にサックス、中央にギター、右にドラムという配置で、とってもよくドラムが見えて大満足でした。
公演が終わってから、CDを20ドルで購入したら、スティーブスミスモデルのスティックをもらっちゃいました。
これ!! 私がその昔、ドラムを習っていたときに、先生が「初心者にはこれ!」といって選んでくれたのがスティーブ・スミスモデル。やっと本物のスティーブ・スミスの演奏が聴けたことになります。
お客さんの入りは150人ぐらい? 200人はいなかったように思います。チケット代がなんと20ドル。ありがたいけれど、これだけの演奏に、この金額で、申し訳ないような。
MCでスティーブが「このアドベンチャラスな音楽を聴きにきてくれたアドベンチャラスなお客さんたち、ありがとう」というようなことを言っていました。最初は演奏中におしゃべりしていたお客さんもいたのが、大興奮でスタンディングオベーションの大喝采に。最高に面白いプロジェクトと、それを理解し、楽しんで応援するお客さんたちという構図が、見事に成立しています。
会場の雰囲気といい、大きさといい、大物ミュージシャンが自分の一番やりたい音楽をやっている感じといい、目黒のブルースアレイを思い出しました。
プラサンナ、まだ若いです。30代と思われます。ボストンに住んでいて、お嬢さんが2歳といっていました。ラガー・バップ・トリオだけでなく、彼についても、今後も追いかけていきたいと思います。
音楽ライターの熊谷美広さんのページをチェックすると、ちゃんと、ラガーバップトリオの新作のレビューがありました。
http://kumagai.blog.so-net.ne.jp/2010-08-04-1
jazz& Drummer というブログに書かれているレビューも素晴らしいです。
[http://blog.goo.ne.jp/narymusic/e/e6d355980af52a679a1c6e0517bc42a6:title=
http://blog.goo.ne.jp/narymusic/e/e6d355980af52a679a1c6e0517bc42a6]

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